多汗症には全身に汗が増加する全身性多汗症と体の一部に汗が増える局所多汗症があります。
全身性多汗症には特に原因のない原発性全身性多汗症と感染症や内分泌代謝異常、神経疾患などに合併する続発性全身性多汗症ものがあります。
局所多汗症も原因のわからない原発性と外傷や腫瘍などの神経障害による局所性多汗症があります。原発性局所多汗症では手のひら、足のうらや脇という限局した部位から両側に過剰な発汗を認める疾患です。
手掌多汗症
手のひらや足の裏などに過剰な汗をかく症状です。手掌多汗症の症状は、特に日常生活において困難をきたします。紙を持ったり、スマートフォンを操作したりする際に汗で不便を感じることがあります。また、人と握手する際にも、手が湿っていることが気になるため、社会的な場面でも不安を感じることがあります。思春期から20代に発症することが多い。この症状は日常生活に大きな支障をきたす場合があり、例えば書類が濡れる、握手が難しいなど、社会的・心理的な影響もあります。
原因としては、多岐にわたり、大きく分けて原発性と続発性の2種類に分類されます。原発性手掌多汗症は、他に原因となる病気がない場合に発症します。多くのケースは遺伝的な要因に起因し、家族に同じ症状が見られることが多いです。遺伝的要因は交感神経系に影響を与え、体温調節や汗の分泌をコントロールする部分が過剰に働いてしまうことにあります。そのため、暑くなくても緊張やストレスなどが引き金となり、異常に多くの汗が分泌されます。続発性手掌多汗症は、他の疾患に伴って発生します。例えば、糖尿病や甲状腺疾患、神経疾患などが原因となる場合があります。これらの病気により体内のホルモンバランスや自律神経に影響を与え、手汗が過剰になることがあります。また、薬剤の副作用としても発生することがあります。例えば、抗うつ薬や降圧薬の一部が汗の分泌を促す場合があります。
手掌多汗症の治療法
ボツリヌス毒素注射、外用薬、内服薬、イオントフォレシスと呼ばれる電流を用いた治療法があります。
また、重症例では交感神経遮断術が検討されることもあります。治療法は症状の重さや患者のライフスタイルに合わせて選択されます。皮膚科を受診することで、適切な治療法の提案を受けられるため、悩んでいる場合は専門医の相談をお勧めします。
腋窩多汗症
腋窩多汗症とは、脇の下に多量の汗がでる病気です。発生率は比較的高く、日本人の10%弱に認められます。ワキガ(腋臭症)とはまったく異なり、匂いがあまりきつくない、水状の多量の汗をかくのが特徴です。ワキガは油分の多い油の汗を発生させる、アポクリン線の多い方の症状です。それに対し腋窩多汗症は、エクリン線からでる水状の大量の汗が特徴です。シャツの脇の部分だけが濡れるくらい汗をかくが、きつい匂いがないのが腋窩多汗症の症状です。
※もちろん腋窩多汗症の場合も、いわゆる汗臭いと言われるような状態の匂いは発生します。
腋窩多汗症の治療
塗り薬
お薬をわきに塗ります。持続時間が短く、毎日繰り返し塗る必要があります。
ボトックス注射
わきにお薬を直接注射します。1回で4~9ヶ月効果が持続しますので、年に1~2回の注射します。
しわ治療で有名なボトックスが、注入部位で汗をかかなくなることはもはや常識的になっており、脇の汗や、汗染み予防で需要が多くを占めています。昔はしわ取りでボトックスを打った額などが「汗をかかなくなって常にサラサラ、ベトベトしない」と相乗効果の喜びの声を聞くこともありました。ワキの汗対策は夏に限らず、職業上ブラウスを着るような方では一年中欠かせないものです。常に制汗剤を持ち歩くケースもあるようです。ちょっと大変ですね。心理的な負担も大きいと思います。
人はアセチルコリンという神経伝達物質が、神経から伝達すると汗をかきます。ボトックス注射には、このアセチルコリンの放出を阻害し、汗線へ情報を伝達させないことで発汗を抑制します。
- 少しの緊張で大量の脇の汗がでる
- 両脇の発汗が左右対称で多量の発汗が見られる
- 匂いのきつくない、水状の多量の脇の汗がでる
- 脇の汗が異常に多く、日常生活に支障が生じる
- 人より多量の脇の汗をかくため、色の濃いシャツの着用をためらう
- 症状により人目が気になり、精神的苦痛がある
- 眠っているときは、症状がそれほどない
- 近い症状の家族・親戚がいる
通常効果は2~3日で現れ始め、個人差はありますが4~9ヶ月程度効果が継続します。多汗症対策で使われるボトックスは、「ユニット」という単位で使用されますが、ワキの汗対策では最低片側で50ユニットが必要になります。(両ワキで100ユニット)これでおおよそ半年感は汗を気にしなくなれるケースが大半です。もちろん、半年の間は全く汗をかかないのではありませんが、感覚的には2~3ヶ月は全く意識しない程度まで減少、4~6ヶ月はほのかに感じることはあるが気にするほどでもない、という印象でしょうか。
50ユニット以下の分量では効果が半減し、効果がでないか、効果が続かなく無駄に終わる可能性が高くなります。海外の発表でも20ユニットでは無効であったというものがありました。汗の量が人より格段に多い場合や男性の場合にも、両脇で120ユニットを用いることで完全な無汗反応が見られ、半年から8ヶ月の著効期間という発表があります。一度に多量に注入するよりは効果が切れる前に継続することで、廃用性(汗腺)萎縮による汗の自然減少に期待したい点もあります。
デメリットや副作用はほとんどありません。施術後すぐは倦怠感が感じられる場合がありますが、すぐに症状は収まってきます。原発性腋窩多汗症患者を対象とした国内臨床試験のデータによると、144症例中3例のみで、発汗3例・四肢痛1例です。発汗とは、わきの多量の汗には効果があったが、他の部位で発汗が増加したと感じた患者様がいたということです。
全身性多汗症
体全体または特定の部位に異常に多くの汗をかく状態を指します。この症状は通常、外的な温度や運動、感情的なストレスなどの要因によって引き起こされるものとは異なり、体内の生理的な原因に基づいています。全身性多汗症には原発性と二次性の2つのタイプがあります。
原発性全身性多汗症は、特定の病気や状態に関連せず、原因不明で起こることが多いです。多くの場合、遺伝的な要因が影響していると考えられています。発症は思春期に始まることが多く、特に手足、顔、腋の下などの特定の部位に現れることが多いです。
一方、二次性全身性多汗症は、他の病状が原因で汗の分泌が増加する場合に発生します。これには、ホルモン異常(例えば、甲状腺疾患や糖尿病)、神経系の障害、または感染症や薬物治療の副作用などが関係しています。特に、全身にわたる大量の汗をかくことが見られるため、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
症状としては、異常に多い汗、湿った肌、さらには不快感や自信喪失感が生じ、社会的な孤立を引き起こすこともあります。治療方法には、薬物療法(抗コリン剤)、ボトックス注射、外科手術(交感神経ブロック手術)などがあり、患者の状況や症状の重篤度によって選ばれます。
全身性多汗症は身体的な健康に直接的な問題を引き起こすだけでなく、精神的にも大きな影響を与えることがあるため、早期の診断と適切な治療が重要です。
全身性多汗症の治療法
まず、生活習慣の改善が基本となります。涼しい環境を整える、通気性の良い服を着る、ストレス管理を行うことで軽度の多汗症は緩和されることがあります。また、制汗剤や抗汗成分を含む製品を使用することで、発汗を抑える効果が期待できます。
薬物療法も選択肢の一つです。抗コリン薬は、発汗を抑える作用があるため、全身性多汗症の治療に使用されることがあります。しかし、これらの薬には副作用があるため、医師の指導の下で使用する必要があります。
さらに、ボトックス注射も有効な治療法の一つです。ボトックスは、汗腺に対して神経信号をブロックすることで、発汗を一時的に抑制します。通常、数ヶ月に一度の頻度で施術が必要です。
重度の症状に対しては、外科的な治療も検討されることがあります。最も一般的な手術方法は、交感神経の一部を切除または切断する方法(胸部交感神経切除術)です。この手術は多汗症の症状を劇的に改善することができますが、術後に異常な発汗を引き起こすこともあるため、慎重な判断が必要です。
心理的な要因が大きい場合には、認知行動療法やカウンセリングも有効です。患者の状況に応じて、最適な治療法を選択することが重要です。